利用制限問題、図書館問題研究会が国会図書館に見直しを要請

(ニュースを目にしたのは1週間ほど前で、フォローするのも気が引けるけれど書いておきたい。自己規制に繋がりやすいためらいの感情も、ときとして知る権利の敵になるのだから)

しんぶん赤旗すでに伝えているところによると、在日米兵の刑事裁判権の取り扱いに関して記述した資料について国会図書館が利用制限措置を行ったことに対し、図書館関係の団体・図書館問題研究会が、措置の見直しと当該資料の利用再開を要請したという。同団体のサイトで公開されいている国会図書館館長に宛てた文書によると、9月16日付の日付での要請文となっている。

『合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料(検察提要6)』(検察資料158)の利用禁止措置について(要請)


図書館問題研究会は、住民の学習権と知る自由を保障する図書館の発展を目指して活動する個人加盟の団体とのこと。

要請文は、図書館界が総意をあげて実践しようとしている「図書館の自由に関する宣言」は国会図書館にも妥当し、利用制限措置は、行政府からの要請に機械的に応じたもので、検閲と同様の結果をもたらす自己規制であり、「宣言」にもとるとしている。

さらに、国会図書館の設立にかかわり、「真理がわれらを自由にする」とある国立国会図書館法前文を起草した故羽仁五郎氏(元参議院議員)の言葉を引き、「国立国会図書館の創設の意義が、従来政府官僚機構に独占されていた(秘密)資料を国会議員と国民に公開することによって、主権在民を確立することであったことを考えれば、行政府からの要請に対し独自の判断を放棄してこれに従うことは、国立国会図書館の存在意義をゆるがせにするものと言わねばならない」と、国会図書館の対応を厳しく批判している。

利用制限措置、日本図書館協会が国会図書館に見直し要請

社団法人・日本図書館協会(東京都中央区)が、米兵裁判権放棄に関する資料を利用禁止とした国会図書館に対して、国民の知る権利を制限する過剰な自己規制であるとして、その見直しを求める要請を9月10日付で行ったことが、日本図書館協会のHPにて公開されている。当ブログはid:copyright氏のエントリーで知りました。

要請書のなかで日本図書館協会は、図書館は「図書館はすべての検閲に反対する」とした「図書館の自由に関する宣言」(同協会公表)に基づくべきこと、国会図書館立法府の図書館として行政府から自立した運営を求められていることなどを理由に、利用禁止措置を速やかに見直すこと、利用制限措置の根拠となった内規を見直すことを要請している。

要請書からは「NDL(注:国会図書館)によれば・・・」として、利用制限をした法的な理由が列挙されていて、国会図書館が図書館協会に対して、8月に斎藤貴男氏に対して手渡した閲覧拒否の理由を説明した文書よりも、より詳細な説明を行ったことがうかがえる。また国会図書館は、9月8日に問題の資料のOPAC情報を復活させたともある。

日本図書館協会は全国の図書館関係者で構成される、図書館事業の進歩発展を通して日本文化の進展に寄与することを目的とした公益法人。図書館資料と知る権利の問題が生じたときなどに、協会内の「図書館の自由委員会」という分科会が社会的に発言を行うことがある。

利用制限の米兵裁判権放棄文書、照屋寛徳衆院議員が閲覧し公開

すでに沖縄タイムス琉球新報で報じられているが、国会図書館が利用制限を行った米兵裁判権放棄に関する文書について、社民党衆議院議員照屋寛徳氏が国会図書館に閲覧を申し入れたところ、許可された。照屋氏は9月10日に国会図書館に出向き全文をメモし、自らのHPにて9月12日付で公開している。

照屋氏のサイトによると、ジャーナリストの斎藤貴男氏が閲覧を申し入れて拒否された8月21日の翌22日、閲覧を申し入れたところ許可されたという。ただしコピーや貸し出しは不可とされ、パソコンに秘書が入力したそうだ。


照屋氏のサイトで公開されているのは、米軍関係者らの刑事裁判権について解説した、法務省刑事局、1972年作成の、「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」。

関連して法務省刑事局から検察関係者にあてた通達が参照できるようになっていて、「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定第17条の改正について」(昭和28.10.7)には、その前年発効した日米行政協定で定められた、米軍関係者への刑事裁判権の運用上の指針などが、「合衆国軍隊の構成員又は軍属の公務の範囲について」(昭和31.4.11)には、通勤の往復の行為が、日本側に一次裁判権がないとされる公務にあたるかといった問題などが書かれている。

照屋氏は、真理・真実を知る権利は国民の基本的人権であるはずだとして、真理の追究は国会議員だけでなく、国民すべてに保障されなければならないと書いている。11日付の沖縄タイムスによると斎藤貴男氏も、国会図書館による対応を「ダブルスタンダードにより、国民を差別している」と表明している。

照屋氏は、6月に政府に対し、米軍関係者に対する一次裁判権に絡む質問主意書を提出し、一次裁判権がないとされる公務の範囲を指示した通達を出した理由などを質問したが、「通達を発出したかどうかを含め、・・・お答えすることは差し控えたい」と、とりつくしまもない対応をされていてた。


照屋氏は沖縄選出ということもあって沖縄密約の問題にとりわけ関心が高いと思われる。当ブログは、2006年10月、上智大学で開かれた「沖縄密約訴訟が問いかけるもの」という、西山太吉氏がパネリストを務めたシンポジウムで、照屋氏が西山氏に直接質問をしていたのを記憶している。


◇関連
日米行政協定(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定) 1952年(昭和27年) (データベース『世界と日本』)

米兵裁判権に関する取り決めに言及した秘密文書[資料]

(mediaのタグで分類してきた沖縄密約関連のエントリーをdisclosureに変更しようと思う)

国立国会図書館が利用制限した法務省刑事局作成の文書には、日米間に密約として存在する米兵が起こした事件の刑事裁判権の一部放棄を指示した通達に関する記述があるといわれている。米兵の刑事裁判権をめぐる同様の記述は、1990年に刊行された『米政府安保外交秘密文書 資料・解説』新原昭治編訳( 新日本出版社)に訳出された米側公開文書の中にすでに存在すると以前書いた。こうした文書も現状ではネット上で参照できないようなので、新原氏の著書より該当する部分、半ページほどを引用させていただきたい。新原本は、秘密指定を解除された米側公開文書を訳出することによって、公表されていない日米間の合意の存在を追跡したもの。以下の、フランク・ナッシュの大統領への報告とは、当時のアイゼンハワー大統領がナッシュ大統領特別顧問を責任者とするチームに、全世界の米軍基地に関する全面的な検証を依頼したもので、その中の在日米軍についての報告の中に、米兵が起こした犯罪に関する裁判権の記述(P.90)がでてくる。

フランク・ナッシュの大統領への報告『米国の海外軍事基地・付録』【一九五七年十一月。ホワイト・ハウス】〈秘密区分=極秘)
■「日本[本土]」の部


(中略)


☐関連取り決め
在日米軍は、基本的に、一九五一年調印、一九五二年発効の日米安全保障条約(秘密指定なし)によって律せられている。安保条約の取り決め内容を具体的に履行しているのが、行政協定(秘密指定なし)である。同協定は、司法権、支払い請求、関税、行動権、費用分担、税金などのような事項を律している。これに付随する形で、さまざまな協定、合意文書が行政協定を捕捉し、具体化している。このなかには、支払い請求負担、米国要員にたいする裁判権在日米軍支援のための日本側財政援助の減額に関する協定書などがある。NATO地位協定司法権に関しては発効している。これを補完する秘密覚書(秘密指定区分85秘)が存在している。秘密覚書で、日本側は、日本にとり物質的に重大な意味をもつものでない限り、第一次裁判権を放棄することに同意している。これは事実上「NATOオランダ方式」と同等のものである。このほか、一九五四年の相互防衛援助協定(秘密指定なし)では、軍用装備、物資、役務の供給について規定されている。


(中略)
■「沖縄」の部
(後略)

(注)引用中、「NATOオランダ方式」とあるのは、新原本の解説によると、米兵の裁判権の扱いに関して、1954年、オランダ政府と米国政府の間で、オランダ当局が司法権を行使すべき特別重要なものとオランダ政府が決定するものを除き、オランダ国内での米兵の一次裁判権の放棄にオランダ側が同意したというもの。この方式が駐留米軍裁判権の扱いとして西ドイツやギリシャにも適用されて一つの定式と化し、「NATOオランダ方式」と呼ばれるようになった。

沖縄密約情報公開請求、請求者63名リスト

すでにお伝えしたように今月2日、ジャーナリストや作家、学者ら63名が連名で財務省と外務省に対し、沖縄返還交渉時の密約の存在を示す文書を公開するよう情報公開請求を行った。メディアの多くは西山太吉氏が名誉回復を求めて提訴した沖縄密約訴訟が、最高裁によって却下されたことに重点をおいて、同日、伝えた。ただ識者らによる情報公開請求は、沖縄密約訴訟が民事訴訟として提起されたため、密約の有無を問題提起しつつも、損害賠償請求のかたちをとらざるを得なかったのに対し、ストレートに密約の有無を問う深化した試みであり、この動きはもっと多くの人に知られるべきものだ。

請求者らは、政府が文書不存在と回答することもありうると訴訟の提起も視野に入れているが、政府がいくら文書不存在と回答することでもって、説明を果たしたことにしようとしても、なぜ日米両政府から発せられる情報に齟齬が生じているのか、という点に対する説明責任や行為責任からは、政府は逃れられない。

以下、伝統的メディアが字数の制約のためか報じられない、63名のリストをお伝えする。琉球新報では、この集まりに、「沖縄返還公開請求の会」と名称があてられている。文字起こししてウェブ上にアップするのは、請求者を知ったことをきっかけに、この問題への関心が広がると考えているからだ。請求者には知る権利の問題に敏感にならざるをえないメディア関係者が多い。なお当ブログは、沖縄密約の問題にかねてより関心をもつものであり、西山氏の著書にも、過去にこのような書評を書いた。


沖縄密約情報公開請求、請求者63名(50音順)(★は共同代表)
1 飯室勝彦  2 池田恵美子  3 石塚聡   4 岩崎貞明
5 植村俊和  6 魚住昭    7 江川紹子  8 大田昌秀
9 大谷昭宏  10 大橋真司   11 岡本厚   12 奥平康弘★
13 桂敬一   14 加藤剛    15 加藤義春  16 金平茂紀  
17 我部政明  18 苅田實    19 北岡和義  20 清田義昭
21 小中陽太郎 22 是枝裕和   23 斎藤貴男  24 佐野眞一
25 澤地久枝  26 篠田博之   27 柴田鉄治  28 神保哲生
29 臺宏士   30 高村薫    31 竹田昌弘  32 田島泰彦
33 筑紫哲也★ 34 辻一郎    35 土江真樹子 36 道面雅量
37 仲宗根悟  38 仲本和彦   39 新崎盛暉  40 西村秀樹
41 西山太吉  42 原寿雄★   43 春名幹男  44 藤田博司
45 藤田文知  46 松田浩    47 松元剛   48 丸山昇
49 三木健   50 水島朝穂   51 宮里邦雄  52 宮里政玄
53 宮台真司  54 元木昌彦   55 森潤    56 森広泰平
57 山口二郎  58 由井晶子   59 吉原功   60 米倉外昭
61 米田綱路  62 利元克巳   63 綿井健陽

月刊現代10月号に「米兵裁判権放棄文書」をめぐる記事

当ブログは、国立国会図書館がこれまで公開されてきた日米の外交関係に関する文書の閲覧を禁止したことに危機感を感じて更新をし始めましたが、すでにこの問題をめぐって各所を取材した長文の記事がありましたので、紹介します。
月刊現代講談社)の10月号には、『国家の犯罪/政府が隠す「米兵裁判権放棄文書」』と題するジャーナリストの吉田敏浩氏による記事が掲載されている。記事によると、閲覧禁止にいたる発端となった報道は、5月17日配信の共同通信による記事。5月18日付けの東京新聞の記事は、それを受けてということのようだ。各所の証言から、報道を知った法務省国会図書館に閲覧禁止を要請したことが浮かびあがってくるのだが、その決定は鳩山邦夫法務大臣(当時)すら知らなかったことが暴かれている。この記事の最大の成果は、閲覧禁止を要請したとされる法務省刑事局への取材で「日米地位協定に基づく日米合同委員会の合意書により、日米両政府の信頼関係により公開しないことになっている」という答えを引き出している点だと思われる。記事では、この事件に限らず、日本政府の秘密主義に翻弄され続けてきた米兵事件の被害者たちの声が集められている。詳しくは雑誌本体でご確認を。

沖縄密約をめぐって識者ら情報公開を請求

なんと公開請求に着手した当日に、最高裁が沖縄密約訴訟を棄却(1)

9月2日、沖縄返還にまつわる日米交渉の際の密約をめぐって、米側公文書によってその存在が明示されている秘密合意を記した日本側の文書の公開を求め、ジャーナリストや作家、学者らが連名で、開示請求の手続きを開始した。

開示請求に着手したのは、かつて沖縄返還交渉に関する外交機密をスクープし、情報漏えい教唆の罪で刑事責任を問われた西山太吉氏を含む、かねてより沖縄密約問題に関心の深い、識者63名(共同代表=原寿雄・奥平康弘・筑紫哲也の各氏)。

この公開請求について午後3時から、プレスセンター(千代田区)にて会見が開かれた(上掲写真)。席上、西山太吉氏が、2005年以来、過去の裁判の不当性を訴え、名誉回復を求めてきた国家賠償請求訴訟、いわゆる沖縄密約訴訟について、最高裁による上告棄却の決定が、午後1時に、西山氏側に通告されたことが明かされた。(一審・二審とも、密約をめぐる評価をせず、訴えは除斥期間に提起されたため無効として西山氏の請求を棄却)

識者らは公開された米側公文書を示した上で、対となる日本側の文書の公開を求めており、しかも米側公文書には、日本側交渉者の署名がされているものもある。沖縄密約をめぐっては、政府はその存在を一貫して否定しているため、情報公開の請求者が相当する文書を示したうえで文書の公開を請求する、という前代未聞の展開を迎えることになった。