国立国会図書館が利用制限を行った理由(1)

(もう先月のことになるが上智大学で開かれた、情報ネットワーク法学会デジタルジャーナリズム研究会のシンポジウム「アキバ事件で考える〜目撃ネット情報の使い方と報道・表現の自由」を聴講した。そのシンポジウムでの議論は非公開にというルールであったので中身は記せないが、淡々とした進行ながら有益な議論が聞けた。そのときのパネラーの一人に『ガ島通信』の藤代裕之氏がいた。彼の発言に強く印象に残ったものがあったのだが、同じ内容を含むエントリーがブログで書かれていたので、以下の情報を紹介する前に引用したい。こちらの「ジャーナリストとメディア(媒体)は切り離して考えたい」とするエントリーの中の「伝えたいことがあるなら、どんなことでもやるべきだ。ブログ、メール、チラシ、街頭演説、新聞だけがメディアではないのだから」という言葉がそれだ。それは自己規制によって情報発信をためらう知人の新聞記者に向けてアドバイスした言葉だということだった。恐怖、羞恥心、怠惰、・・・情報発信の障害物は、今や表現者の内面にあるものが圧倒的なのかもしれない。このウェブ時代、公的な価値があると思われる情報をシェアしないほうが不自然、いや悪なのかもしれない。ブログは一次情報が少ないと言われる状況を少しでも変えていけたら幸甚なり)


在日米軍兵士などの犯罪について裁判権の大半を日本政府が放棄することを、1953年に日米両政府が密約していたことが米国側公文書で明らかになったと5月18日の東京新聞が一面で報じた。その後この密約の存在を示す資料を日本側の法務省刑事局が過去に作成していて、国会図書館が所蔵していること、さらにその資料を国会図書館が閲覧禁止にしていることが、共同通信しんぶん赤旗琉球新報などの各メディアによって伝えられた。

そしてこの閲覧禁止措置に対して、8月21日、ジャーナリストの斎藤貴男氏が個人的にも閲覧を申し入れ、拒否されたことから、知る権利の観点、特に情報の共有という民主主義の根本となる前提が崩されたという観点から、国を相手どって提訴する方針だとして会見を開いた。会見は参議院議員会館で、相談を受けている日隅一雄弁護士とともに行われた。このときの様子は、東京新聞JANJANなど各媒体によって報じられている。自分もこの会見に参加した。

8月21日、斎藤氏は国会図書館に先の資料の閲覧を申し入れた際、閲覧拒否の理由を尋ねると、これまでの新聞(報道)を読むようにと言われ、書面での回答を求めると、前例がないからと拒絶されたという。「国会図書館の閲覧制限を定めた内規にある人権を侵害する資料の閲覧制限の“人権”を過剰に解釈している模様だ」と斎藤氏は語った。

そうこうして斎藤氏は最終的に国会図書館側から、内部的に作成されている説明用の資料を入手した。会見ではそのコピーが配布された。この問題を考察するエントリーを書いているブログ『かたつむりは電子図書館の夢を見るか』のid:min2-fly氏が、JANJANの記事をひいて、館内職員に説明用として配布された内部的資料が外部に出てしまっていると解釈されているが、これは斎藤氏が入手し、会見で配布したものだ。

ちなみに問題となっている米兵が起こした事件の刑事裁判権の放棄に関する取り決めが密約として存在することが、機密解除された米側公文書複数で明らかとなったと報じた東京新聞の5月の報道のはるか以前にも、その密約の存在を示唆する米側公文書は開示されている。しかも日本語訳され、出版もされている。1990年に発刊された『米政府安保外交秘密文書 資料・解説』新原昭治編訳(新日本出版社)の中の、「フランク・ナッシュの大統領への報告『米国の海軍基地・付録』」という文書には、第一次裁判権の大半の放棄を同意した秘密覚え書が存在するというくだりがある。この本は国会図書館にも収蔵されている。次のエントリーでは、国会図書館が斎藤氏に渡した説明用の文書を文字起こしして、お知らせしたい。